医学博士、糖尿病専門医
1985年 千葉県立千葉高校 卒業「糖尿病について」
とにかく一生付き合わなければならないのがこの病気です。
医者に行くと「合併症が出る」「心筋梗塞や脳梗塞になる」「癌になりやすい」など、判で押したように同じことばかり言われるのではないかと思います。 もちろんテキを知ることは最大の防御ですから、怖いことや知りたくないことでも事実はしっかりと頭の中に入れておかなければなりません。 と同時に「じゃあどう戦ったらいいの?」という疑問が皆さんの中に沸いてくることでしょう。厳しい食事療法をしなければならないのか、 時間やお金をつぎこんでジムに通わなければならないのか・・・などなど。接待や不規則な仕事、漫然と続くストレスや子育てや介護。 糖尿病には悪いとわかっていても生活や仕事のためにはどうしようも無いことも多いはずです。テキを知ったところでこれでは戦略をとることもできません。
では、どうしたらよいのか。
ベリークリニックではまず皆さんの生活についてじっくりお話を聞くところからはじめます。そして皆さん一人一人に合った治療のやり方を提案します。
糖尿病の原因は多元的で一つではありません。その人の血糖コントロールを悪くしている根本を解決する努力をしなければ、どんなに努力したところで良い血糖コントロールを得ることはできません。
なかでも薬剤の選択は、医療関係者の腕のみせどころと言っても良い部分です。しかし残念なことに巷では誤った薬の選択がなされている場合も多くあり、血糖が良くならないからと言ってどんどん薬が強くなり量が増えていく、患者さまも主治医も不安に思いながら、患者さまは「自分が食べ過ぎるから良くないのだ」と思いこんで何も訴えないなどという例はざらにあるわけで、これではみなが不幸です。強い薬やその人に合わない薬を使っていると、逆に血糖コントロールは悪くなり、患者さまの食事はさらに乱れる結果となる場合も多いのです。
また血糖コントロールはHbA1cを良くするだけが目標では無いということを忘れてはいけません。最近、良く言われていることはHbA1cの数字だけでなく質を良くしましょうということです。HbA1cが低くて良い値でも、心筋梗塞や脳梗塞をおこしたりする例は多くみられて疑問に思われてきました。血糖変動の幅が大きく、結果としてHbA1cの数字だけ低い値を出すよりも、例えHbA1cの値はそこそこであっても、血糖変動の幅が小さいほうが、よりイベントやトラブルが少なく安全な治療であることがはっきりしてきました。つまり、薬をどんどん強くし量をどんどんつぎ込むやり方は間違っていたわけです。
糖尿病は多くの場合は無症状です。しかし一旦他の病気にかかってしまった場合に、日ごろの血糖が不十分であることが牙をむいて襲いかかってきます。血糖が高いことにより、必要な手術をすることができなかったり、ただの肺炎が重症化し命を落とすことにもなりかねないのです。糖尿病でなければ大丈夫だった、糖尿病が悪かったのでこのような結果となった、で全てが説明つけられてしまいます。
ベリークリニックでは、血糖コントロールを独自におおまかに
1 本人に自覚症状がありいつ死んでもおかしくない非常に危険な状態
2 自覚症状は少ないが手術や大きな病気には耐えられない状態
3 生存可能な状態。抜歯や白内障の手術くらいならなんとか耐えられる状態
4 糖尿病の無い人より大幅に血糖は高いが、ほぼ安定して良好な血糖コントロールが得られている状態
5 糖尿病の無い人とほぼ遜色のない血糖コントロールが得られている状態
の5つにわけて現在の状態を患者さまに説明するようにしています。まずは3の状態にすることを目標に治療をすすめます。3の状態にするのに、特別に辛い努力や厳しい制限は必要ありません。適切な薬剤選択とご本人が正しい知識を6〜7割方実行すれば得られるものだと実感しています。もちろん、その先、5の状態にするためには、ご本人の努力と多少高度な治療や薬剤選択が必要となってきます。
必死で高いサプリメントを買って、必死で「朝バナナダイエット」をしても、それは「的外れ」と言うしかない場合もあります。また、歩くことが糖尿病治療に1番良い方法であることはゆるぎない事実でありますが、真夜中や朝早くに何時間も泣きながらくたくたになりながら歩き、怪我をしてしまって中断してしまうことは、残念ながら的外れの努力であったと言うほかはありません。私たちに隠れて一人で的外れな努力をされないよう、私たちの言うことに耳を傾けてご自分の考えを変えていただくこともまた、私たちの治療努力でもあります。
また私たちの身体は季節によって変わってきます。季節に合わせて先を見越した努力や工夫も必要となってきます。毎回の診察では、このような日々変化する私たちの身体について、患者さまと一緒にお話をしどうやって行けば今の状態を維持できるか、またさらに血糖コントロールを良くするにはどうしたらよいのか、ということを相談します。
なかには医師の言うことよりご自身の意思を貫かれる方もいます。その場合はご本人の意思を尊重し見守らせていただきますが、3カ月もしないうちに「これは間違っていたのだ」と気付いていただけることのほうが多いです。それは当日に結果が出る外来迅速検査のおかげだと言えると思います。診察のそのときに今日のデータが並んでいるのは本当に必要なことだと思います。
薬剤については、昨今は安いジェネリクスを希望される方が多いですが、糖尿病のような慢性病で一生飲むかもしれない薬の場合は、きちんと臨床治験が行われていて現在も市販後の調査が継続されているしっかりした薬を飲むべきだとベリークリニックは考えています。しかし、経済的な理由でどうしてもジェネリクスを希望される方の意向を無視して高い薬を出すようなことはしません。安全性がある程度わかってきている古めのジェネリクスを選択、もしくはオリジナルの薬で値段の高くないものを組み合わせるよう努力します。
私たちの言うことに耳を傾けていただけるよう、私たちも日々試行錯誤で一生懸命努力いたします。梅ちゃん先生ではありませんが、それが医療と関係のないことでも大歓迎です。糖尿病の治療は患者さまの全てと関連があるからです。
<なぜ糖尿病の治療をしなければならないのか>
来院される患者さまの中にはさまざまな知識を豊富にもたれている方も多いです。最近では糖尿病に関連したテレビ番組や本もたくさん出回っていますから、糖尿病が悪いと眼が悪くなる、合併症が出る、ということはほとんどの方がご存じです。HbA1cという指標もあることはご存じの方が多く、昨年からは新基準NGSP値に変わったこともご存じの方も多いです。
しかし、糖尿病があると他の病気に罹った場合に治療が出来ないということをご存じの方はほとんどいません。早い話が、血糖コントロールが悪いとご自分の歯1本すら抜くことが出来ないのですが、このことをご存じの方は少ないです。
また血糖が悪いまま妊娠すると胎児に影響があり、早産、妊娠中毒症、胎児の異常などの原因になります。血糖が悪いと手術をした傷がつきませんので手術ができません。また日和見菌など抗生物質が効かない菌に感染することも多いので、治療法が無いなどということにも遭遇してしまいます。
糖尿病の方が心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすいのはご存じのとおりですが、起こしてしまった心筋梗塞や脳梗塞も、糖尿病のために症状が重篤になり、改善後のリハビリの予後もあまり良くありません。これは血糖コントロールさえしておけば避けられる危険ですので、ぜひとも良い血糖値で安心して生活されることが勧められます。
薬も選んだ、糖尿病についての勉強もした、運動だってしている、なのに血糖が良くならない・・・・
もしもこうなってしまったとき、もう一度だけ「食事」の部分を振り返ってみてください。
病院で管理栄養士が行う栄養指導(栄養相談)は、くり返し受けていらっしゃる方のほうが血糖コントロールが良いことは証明されています。
米の量は減らした、甘いものも取っていない、でも毎日の飲酒だけはかかせない、という状態では、なかなか良い血糖コントロールは得られません。
巷には、「何を食べても良い」というようなうたい文句の糖尿病の本が出回っていますが、もちろん、糖尿病の方も何を召し上がってもかまいません。ただし量と食べ方は気をつける必要があります。合併症(特に腎症)が出てしまった、またはその兆候がみられる場合は、塩分制限とたんぱく制限も必要になってきます。くり返し栄養指導(栄養相談)を受けて、御自身の食生活の見直しをしていきましょう。